K・K  2018年9月20日号掲載

 

「マレーシアの今の魅力を伝えたい」
~JETROクアラルンプール新所長 小野澤麻衣氏にインタビュー~

ピックアップ  2018年7月21日、JETRO(日本貿易振興機構)クアラルンプール事務所に、小野澤麻衣氏が新所長として着任した。2003年から2007年にかけ、タイのバンコクへ赴任、その後、メコン地域の調査に携わるなど、アジア地域では経験豊富な氏であるが「陸のアセアンについては経験があるものの、海のアセアンは初めてなので、一から勉強中です」と、謙虚な姿勢で新天地に臨む。

 この度弊紙は、着任1か月後の小野澤氏へのインタビューの機会を得、JETROクアラルンプール所長としての抱負、これまでの経歴、社会における今後の女性の躍進などについて、率直な意見を伺った。

アジアへの関心〜日本だけではない世界、文化、歴史を知る〜
 8〜11歳にかけての多感な時期、家族とともにUAEで暮らしていたことがある小野澤氏。「日本だけではない世界、文化、歴史」を肌で知り、「日本とは異なる面」があることを、子どもの頃より認識していたことは、今の自分を培う基礎となっているかもしれないと語る。また、国際基督教大学在学時代、ネパールに植林することを目的とするNGO団体で活動したことをきっかけに、目がアジアへと向き始め、さらにブータン、モンゴルなどを一人旅したことで、アジアへの関心が一層高まったと振り返る。

JETROでのキャリアスタート
 大学卒業後はアジアと関わることのできる仕事に就きたいと考えた小野澤氏。しかし、持続可能性等の観点から、NGO等ではなく、ビジネスとして相対することのできる現場で仕事をしたかったのだと言う。「大学時代は理系だったんですけどね。興味がすっかりそちらに向いてしまいました」と自身の心変わりを笑う。JETROと出会い、社会人人生をスタート。
 「JETROへ就職したころ、ご自分が所長にまでキャリアを積むことは想像していたか」との問いに対し、「想定もしていなかったし、バリバリとキャリアを積みたいと思ったこともありませんでした」と即答する。「現場で、企業さんのお手伝いができることが楽しくて仕方がなく、日本の良いものをもっと世界に広めたいとの思いのみでした」。しかし氏は、ふと気付いたように顔を上げ、次のように続けた。「ポジションによって、各企業様の願いや要望から受ける重みが変わってきているのは感じていますね」。

これからのJETRO
 「比較的その地位を確立した企業らが、海外進出する際に門を叩く先が、JETROである」、というイメージを有していた記者。インタビューを通して、今のJETROはそれとは大きく異なることを知る。社長1人で製造から販売まですべて手掛けるという規模の会社の海外ビジネスを手伝うこともあれば、自ら各産業分野に対し、海外へ目を向けるメリットを紹介する活動も行っていると、小野澤氏はその活動事例を示す。
 これまでは製品、特に農産品・食品は日本国内、県内市場で充分に売れていた。ところが、10年、20年先まで続くかというとそうではない。もはや、OEMの生産で生計が立てられる時代は、終焉を迎えようとしている。
 「『何とかしたい』と立ち上がる企業をサポートするのみならず、JETROの存在を知らない、または、JETROは敷居が高い、と躊躇している人々の中へ自ら飛び込み、海外への扉を開くお手伝いをする。彼らの“FIRST CONTACT”の相手がJETROだと思っています」。

マレーシア赴任は、大きなチャレンジ
 タイやメコン地域を中心に、アセアン地域と長く関わってきた氏であるが、「タイ、および、後発アセアン諸国であるカンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムは、 陸続きゆえに“面”として捉えることができました。他方マレーシアは、海をはさむストラテジーが有効な国です。これまでの経験は通用しない、大きなチャレンジを要する赴任先です」と気を引き締める。

直近のミッションとゴール
 マレーシア赴任を前に、小野澤氏は周囲の人々にマレーシアに関する認識、イメージを尋ねたという。結果は、大半が「人件費が高い」、「イスラムの国」という内容だった。「まずは、日本のみなさまに、マレーシアの今の魅力を伝えたいと考えています。市場の約2割を占めるのは中華系です。人件費は確かに上昇していますが、英語力がこれほど浸透しているのは大きな魅力の1つです。ターゲットや戦略次第で大きな可能性を有するのがマレーシアですから」と、目を輝かせる。また、「新政権になり、マレーシア側、日本側双方において、ビジネス拡大機運が高まっていると思います。経済の基礎となる製造業、そしてIT・外食といったサービス産業の両分野で、日本とマレーシアの具体的なビジネスの結びつきを一つでも多くお手伝いしたいと考えています」。9月6日に、日本企業40社とマレーシア企業との農水産・食品分野の商談会を実施した。これからIT分野でのマッチング事業や進出日系企業向けビジネスセミナーなどを予定している。加えて対日拠点、対日投資の増進など、小野澤氏の目下の課題は多い。
 さて、小野澤氏の直前の赴任先は新潟県。洋食器と金物の街である燕三条、かつては織物産業王国として栄えた十日町市など、県内数多くの地場産業プロジェクトをバックアップしてきた。今年、十日町では、3年に1度の「大地の芸術祭」が開催された。マレーシアでも、今年度、燕三条製品のフェアを開催予定だ。「これからも(個人的に)陰ながら応援していきたいと思っています」。
*ただいま、イセタン・ザ・ジャパンストアGフロアーでは、燕三条製の見事な品々が人々の目を惹きつけています。

「女性・男性に関わらず、選択肢の多い社会が必要」
 日本では現在、東京医科大学の女子受験生差別問題を皮切りに、女性の“狭き門”が改めて大きくクローズアップされている。一方で国は、働き方改革と女性の社会躍進を掲げ、試行錯誤している状況だ。そこで、現代社会において、女性がいかに躍進できるかについて、小野澤氏の意見を伺った。
 「人には諸事情があり、また、その諸事情とは変化するもの。例えば、若い時はどこにでも異動できたところが、自身の病や家族の介護などにより異動ができなくなるという状況も発生し得ます。どのような場合にも『選択できるオプションが準備されている』という状況が必要ではないでしょうか。女性・男性に関わらず、数多くの選択肢を有し、ステップアップしたければチャンスを得られ、またその逆も可能といった、人々が選択可能な仕組み作りが今の世界に求められることではないでしょうか」。
 「大切なお客様である日本・日系企業、そしてマレーシア企業の皆と意見をぶつけ合いながら、必要とされることは何か、をしっかりと考えて参ります。またJETROクアラルンプール事務所は、約20名の所員がそれぞれエキスパートとして任務を持つことで成り立つ組織。一同僚として皆と意見をぶつけ合いながら、責務を全うしていきたいと考えています」。 ブレない確かな視点を有し、気負わず柔らかで自然体。世界を現場に輝く小野澤麻衣氏の今後の活躍を期待してやまない。





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着任早々に開催されたJAPAN EXPO会場にて(左から4人目)

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「~職人探訪~十日町きものGOTTAKU」ノーホームページ

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紅型染めを主体に着物の製造を行う㈱いつ和の作業風景。まるでバティック作業工程のよう!
(「~職人探訪~十日町きものGOTTAKU」HPより)

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辻ヶ花染を40年続ける翠山工房
(「~職人探訪~十日町きものGOTTAKU」HPより)

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燕三条の美と実用性を極めた品々。
イセタン・ザ・ジャパンストアにて

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8月にKLで行われたマレーシアビジネスセミナーでの挨拶

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8月にジョホールで開催されたルックイーストポリシーサミットに参加

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9月にKLで行われた食品商談会

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9月にKLで行われた食品商談会での調理デモンストレーションの様子

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小野澤麻衣氏
JETROクアラルンプール事務所所長