K・K 2018年7月19日号掲載

 

未来のマレーシアのために
〜伝統産業を活気あるビジネスに!若きバティック職人の挑戦〜

ピックアップ  ニク・モハド・ファイズ氏、33歳。マレーシアで現在最も注目される新進気鋭のバティックデザイナーの1人で、王室およびセレブにこよなく愛される作品を発表し続けている。「自分や自身のブランドのためではなく、マレーシアの未来のために」と、難関ビジネス分野である伝統産業に挑むニク氏を、本日は紹介しよう。

バティック
 バティックとは、インド、スリランカ、インドネシア、イラン、タイ、マレーシアなどで見られる、ろうけつ染めを施した布地を指す。マレーシアでは現在、バティック工房は600軒存在。そのうち500軒は半島東海岸北東部に位置するクランタン州にあり、さらにそのうち200軒は、州都であるコタバルから海辺の町へ通じる1本の道沿いに存在し、ニク氏の工房“RUMAH GAHARA(ルマー・ガハラ)”もその通りに立つ。
 「バティックの発祥地に対する議論は絶えませんが、今のところはインドネシアが“発祥地説”をリードしています。マレーシアは、伝統や文化にしっかり向き合ってこなかったため、どうしても他国よりもアピール面で弱いところがありますから」と、穏やかながらも複雑な心情をニク氏は垣間見せる。しかし、「起源説を争うよりも、質で判断していただけるよう切磋琢磨しなければなりません」と、毅然と前を向く氏の表情には、自ら生み出した作品への自信が伺える。

12歳でバティック職人となることを決意、ブランド名も心に決める
 家族の多くが、コタバルで金細工やバティックなどの伝統産業に従事していたニク氏は、12歳のとき、自身もバティック職人となることを決意する。「とにかくバティックが好きで、他の道は考えられませんでした。その年、バティック工房を運営する祖母らに、『自分に跡を継がせてほしい』と頭を下げたのです。私の世代で伝統職に興味を持つ人間は親戚内にいなかったため、2つ返事で了承してくれました。そのときに、将来のブランド名も決めました。それが今の私のブランド“RUZZ GAHARA(ルーズ・ガハラ)”です」。RUZZは、ニク氏が尊敬する母堂の名、GAHARAとは“真の優雅さ”を意味する。

22歳で起業、着実にステップアップ
 ニク氏は22歳でバティック製品を取り扱う企業“ガハラ・ガロア”を立ち上げるとともに、オリジナルレーベルRUZZ GAHARAの準備を開始。2012年、“RUZZ GAHARA”をガハラ・ガロアの主力事業にシフトすると間もなく、ムルデカ広場正面に位置するテキスタイル・ミュージアムに、ブティック“ガハラ・ガロア”をオープン(現在改装中)。社会の持続可能性、エシカル・アプローチ(倫理的ファッションアプローチ)を踏まえたRUZZ GAHARAは、欧米を含む世界各国のエキスポやワークショップで大いに注目を集め、VOGUE BRITISHやTATLER MAGAZINE BRITISHなどで大きく紹介される。またフロリダ州マイアミでパートナー企業を得、アメリカ-マレーシアのアート・伝統工芸に関わる共同経営事業を立ち上げる。2017年11月、念願であった自身のアトリエ “RUMAH GAHARA”を、先祖から譲り受けたコタバルの地にスタート、2018年5月にはAmpang Hilir(KL)にオートクチュール店をオープンする。

王室、世界のセレブに愛される上品なデザイン
 現マレーシア国王夫妻はクランタン出身ということもあり、王妃はRUMAH GAHARAに足を運ぶ。また各州王室、在マレーシア各国大使夫人など、氏のバティックをこよなく愛するセレブは後を絶たない。マレーシア・バティックの古典製法である銅製スタンプを駆使するとともに複雑な染めの技術を多用、比類なき美しさを醸し出す氏のバティックは、極上の一言に尽きる。氏のパレオをスカート替わりに腰に巻くだけで、結婚式やレセプションの装いとなり、Tシャツ&ジーンズといったカジュアルな装いに同レーベルのスカーフを身に纏うと、一気に上品さが漂う。他とは一線を画す秀逸なバティック。それこそが、ニク氏が心血を注ぐRUZZ GAHARAだ。

作品制作を支える女性の力
 ニク氏が2018年5月に発表した新デザインは、染めだけで実に8工程を踏まえる大作だ。銅製スタンプの制作期間を加味すると、完成までに8か月かかる作品もあったという。「今回の作品制作は、これまでで最も難航しました」とニク氏は打ち明ける。職人らの根気が続かなかったのだという。「何よりも、彼らにモチベーションを維持してもらうために腐心しました」。しかしながら、ニク氏を信じて完成まで協力してくれた職人らを「未来永劫、私の大切な宝であり素晴らしいチーム」と、手放しで称え、感謝する。また、「当初は男女混合チームだったのですが、最後までチームとして残ってくれたのは女性のみでした。女性の根気、技術、素晴らしさを痛感しました」と、こっそり打ち明けてくれるニク氏だった。

伝統はビジネスになる
 ニク氏は幼い頃より、熟練工よりバティック制作に関わるあらゆる技術を学ぶとともに、マレーシア国際イスラム大学を卒業、マレーシア工科大学ビジネススクールで、修士号(戦略経営)を取得する。経営者、バティック職人、マレーシア大学クランタン校での「マーケティングとブランディング」講座の講師、他大学非常勤講師という数々の顔を持ち、活躍するニク氏。「『バティックが好き、伝統産業に従事したい』という意欲だけでは、世の中には通用しません。一方、『伝統産業はビジネスとして成り立たない』と躊躇する人々には、『伝統はビジネスになる!』ということを証明し、伝えていかねばなりません」。 

マレーシアの未来のために
 コタバルのアトリエ“RUMAH GAHARA”で、バティック技術と経営学を同時に学ぶことのできるアカデミーが間もなくスタートする。「アートや伝統工芸の道に興味を持ちつつも、それでは生計を立てられないとあきらめている人々が多いはずですから」。

 RUMAH GAHARAは、夢を叶えるための大切な拠点だとニク氏は語る。「RUMAH GAHARAも、レーベルRUZZ GAHARAも、私自身のために存在するのではありません。今後のバティック産業のため、アート発展のため、そしてマレーシアの未来のために、これからの人生を捧げていきたいと考えています」。ニク・モハド・ファイズ氏は、伝統産業ビジネスを成功に導くロールモデルとなるべく、今、その全精力を傾けている。自身の憧れの地だという日本への進出も間近かもしれない。




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2017年11月にオープンしたアトリエRUMAH GAHARA

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RUMAH GAHARAのモダンな看板

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RUMAH GAHARAの目の前には水牛の姿も見受け在れる

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RUMAH GAHARA内の様子

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RUMAH GAHARA内の様子

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RUMAH GAHARA内の様子

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アトリエで働く女性たち

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蝋を外す作業をする女性

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バティック染付作業用の蝋

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洗い・移染止作業をする作業所

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洗いの行程を行う作業所

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銅版スタンプ

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銅板スタンプに蝋をつけるところ

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蝋のついた状態の作品

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蝋のついた生地

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工房を訪れる人はバティック染付体験が可能.

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ニク氏はサラサラと素早く蝋を生地に走らせる

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一方、素人がトライすると、蝋付けは非常に難しい

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RUMAH GAHARAでは他ブランドのバティック生産も請け負っている

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ニク氏とコタバルのアトリエを管理するスタッフ

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KLにオープンしたオートクチュール店

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オートクチュール店内の様子

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オートクチュール店内の様子

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オートクチュール店内の様子

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オートクチュール店内の様子

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カジュアルウェアも豊富

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手ごろな値段の男性用カジュアルシャツ

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男性用シャツ

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新作モデル例

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新作モデル例

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新作モデル例

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2018年新作デザイン

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2018年新作デザイン

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2018年新作デザイン

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2018年新作デザイン

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「この作品の制作には8工程、8か月を要しました」

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同じく8工程を要した作品

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同じく8工程を要した作品

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①スカーフをジャケットとして用いる方法を伝授してくれるスタッフ。肩に羽織り、

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②スカーフの端を結ぶと

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③袖のようになる

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ニク氏自ら、パレオをスカートとして用いる方法を伝授

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RUZZ GAHARAの作品。バッグや財布などの小物もオリジナル

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RUZZ GAHARAの作品。バッグや財布などの小物もオリジナル

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RUZZ GAHARA商品を購入すると、こちらの箱に納めてくれる

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RUZZ GAHARAギフトセット

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RUZZ GAHARAファッションショーの様子

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RUZZ GAHARAファッションショーの様子

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RUZZ GAHARAファッションショーの様子

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RUZZ GAHARAファッションショーの様子

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ロイヤルファミリーもニク氏の工房を訪れる

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ニク氏のデザイン画

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ニク・モハド・ファイズ氏

 





GAHARA GALLERIA, YSB SQUZRE(ショップ)
333, Persiaran Ritchie, Ampang Hilir, KL
03-4266-6669
www.ruzzgahara.com
ruzzgahara