ペナンの真珠  2018年3月22日号掲載

コラム

伝統のバティック(ろうけつ染)
 20年前、クアラルンプール滞在時にはマレー人アーティストのバティック絵画教室に毎週習っていました。しかし、今回は教室をやっている先生がなかなか見つかりません。そういえば、バティック柄のプリント布は沢山あるけど、以前ほど手書きで質の良い布がなく、バティックが20年前に比べるとなんとなくうすれてきたような印象です。「そうか、日本でも世界のどこでもいまや伝統文化の継承が問題になっているけど、マレーシアもまさにそんな状況なのでは。」バティックで描く魅力を知っている私はとても残念な気持ちでしたが、なんと、すてきなバティック工房がありました!
*『バティック』とは:インドネシアやマレーシア特産のろうけつ染で描かれた布地のこと。色をつけたくない部分に溶かしたろうを塗ってから染める伝統技法を使った模様染め。インドネシアのジャワ島のものが有名で日本では「ジャワ更紗」とも言います。

ロザナさんのバティック工房
 世界遺産ジョージタウンのアチェ通りにある工房で9年間バティック絵画教室を営んでいるのは、バティックアーティストとして約30年のゆたかな経験を持ち、展示会出展や賞の受賞、雑誌にも掲載されたことのあるロザナ・モハメッドさん、温和ですてきなマレー人女性です。基本的に予約は不要で、お店のオープン時間いつでも好きな時に来て学べるスタイルです。お客さんは主に観光客で、観光の合間に1時間くらいで気軽にバティック絵画を楽しむことができると好評です。

あなたがアーティスト
 ‘A Gallery Where You are The Artist’をキーコンセプトに、それぞれの方の内なる才能が解き放たれるよう、またアートに馴染みのない方にも気軽に楽しんでもらえるよう、工房内はリラックスのできる静かでゆったりとした雰囲気です。先生の描いた下絵を選んでもいいし、自分のオリジナルの絵、現代のもの、好きなものなんでも描いてバティックの手法で楽しめます。「ここは、海外からのお客さんと伝統のバティックが文化交流するすばらしい空間です。リラックスしてとてもいい時間が過ごせたと、お客さんは皆うれしそうに完成した作品を持って帰ります。」

古い伝統スタイルをつかって、現代のものへとリニューしていく
 バティックは「ユニーク」でとても「深い」ものだそうです。ロザナさんは、こうしなければならないとか堅苦しい制限や限界を越えて、バティック伝統の手法をつかって、人種、宗教、文化の違いを越え、気軽に、自由にそれぞれの描きたいものをなんでも描がいてもらい、簡単で楽しくして現代バティックの時代を刷新していくそうです。ロザナさんにとってのバティックのキーワードは、「リフレッシュ」&マレー語の「Segar(新鮮)」だといいます。私にはその感覚が把握しづらく、何度も聞き直しているうちに、「体験してみないとわからない。まずはやってみてください。」と言われました。思っている以上に、バティックはまだまだ奥が深かそうです。

内なるゆたかな時間と空間 マレーシア伝統の叡智
 伝統文化の多くがどこでも衰退していく昨今、バティックのことが心配ですと話すと、「ここは世界中からお客さんがやってきます。子供から大人までバティックを楽しめます。私のバティックからインスピレーションを得たり、好きになった人が続けてくれたらうれしい。伝統技術を人には教えず、製品販売だけするという方法もあるようだけど、私はバティックの手法を伝えたい。」「バティックの技術とアイディアはおもしろい。人がろうを使って描くことをつづければ、バティックの伝統手法はなくならない。」「わたしはバティックへの深い感謝と愛をもっています。わたしのバティックの知識と愛情を地球のみんなと分かち合っていきたいです。」とロザナさん。
 バティックはセラピーやリラックスのアクティビティでもありどんな年齢の人でも楽しめるそうです。近年、ペナン島の学校でも教育熱が高まるにつれ青少年問題等が増え、日本と同じような痛ましい事件も報道されるようになってきたようです。日常のストレスから離れ、なにも考えないで集中しリラックスできるバティックの時間はぴったりかと思います。「バテックでなくてもいいけど、子供、先生、親、大人たちもこんなほっと一息できる平和な時間があればいいのに。。」とロザナさん。お互いに子を持つ母親でもあり、国を越えて共通する社会問題などに話しは及びました。

ロザナさんのバティック絵画を体験
 ろうの温度に合わせて描くスピードを早くしたり遅くしたりすること、水の動きとともにブラシを運ぶこと、水が色とともに布に浸透し自然に広がっていくスピード、ゆったりとした自然のリズムとつながったバティックの伝統の叡智。静かでゆたかな時間。
 伝統文化はどれもそんな一面をもっているのではないかと思いました。自然と息をあわせて営む、美しさの追求や表現だけでない、芸術の生きた叡智。大人も子供もストレスの多い現代社会のあわただしい日々に、ほっと一息、内なる平和な空間をもたらしてくれる。
 こんな風に、伝統の叡智が自然に、その時代、時代に新たになって伝わっていくといいな。伝統を残さなければと苦しくなるのでなく、自然に伝わって変容していくといいなと思いました。

 「私が愛をこめ、真心から創ったもの、いつか誰かにプレゼントしたり売ったりし、それは私の元を離れていく。それはなんだかとてもいいことで、とってもうれしい気持ちになる。」とロザナさん。真心、愛、ゆたかな流れがずっと巡っていくということ。思わず心をうたれてしまいました。「そうか、伝統の叡智はユニバーサル(普遍的)なものなんだ。」と、気づいた静かな午後のひととき。さりげない深い対話に、純粋でしなやかなアーティストの真を感じました。


Rozana’s Batick
81 B / 81 C Lebuh Acheh, 10200 Georgetown, Penang
12時 〜18時(月〜土)
rozanasbatik@yahoo.com
Rozana’s Batik
①ロザナ先生がデザインしろうで描かれた下絵に色つけ:1時間 RM35、②自分でオリジナルの下絵を描きろうでラインを描き色つけ:2時間RM75
(予約不要で、お店のオープン時間のいつでも好きな時にできる。※10人以上の場合は要予約)


筆者から
みなさん、こんにちは。2017年9月、夫の海外赴任に伴い約2年ぶりにマレーシアにやってきました。前回はクアラルンプールに滞在しましたが、今回はペナン島に住むことになりました。まず、KLの近代化にはとっても驚きました。姿も形もほとんど跡をのこさず変わってしまい、思い出の場所(住んでいたコンドミニアム、娘の学校 etc.)はビルに埋もれてどこにあるかわかりません。まるで東京の都心のようです。でも、マレーシアの人々のゆったり感や温和で親しみやすい人柄は全くかわってないなーと感心しました。マレーシアが大好きだった理由、忘れていた「心地よさ」を思い出しました。さて、ペナン島も予想外に都会でびっくりでしたが、ジョージタウンなど街中であっても、熱帯雨林の木々、とくに長老の大樹がとても美しく、野生の輝く生命力には見とれてしまうほどです。新しい出会いと発見を楽しみに、ここからみなさんにフレッシュな情報をお届けします。お楽しみに!(by ペナンの真珠)


写真
ロザナさんとバティック工房

写真
室内は静かで落ち着いたアートの雰囲気。壁には、マレーシアの自然を描いたロザナさんの作品(畳一畳大の大きさ)が飾られていてすてきな空間です

写真
ろうの入った鍋と下絵&チャンティン(ろう引きに使う道具)コンロでろうを溶かし、チャンティンでろうをすくって先の穴から出てくるろうで下絵をなぞります

写真
ロザナ先生のオリジナルデザイン(ハンカチサイズ)ろうづけされた下絵(上)と色づけされ完成した絵(下)

写真
バティクアーティストのロザナ先生

写真
バティック体験(下絵をろうでなぞった後、色づけしていく2時間のコース)ちょっと緊張ぎみ、でも先生がていねいに指導してくれました。水が色を広めがなら布にしみていく、美しい自然なグラデーションに思わずうっとり。

写真
工房の隣のロザナさんのお店(営業時間は工房と同じ)ハンカチ、ポーチ、財布、シャツ、スカーフ他、お土産アイテムがいっぱい。ロザナ先生がデザイン、ハンドメイドしたものが90%