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K・K  2018年1月1日号掲載

 

マレーシアン・ブランドの確立を目指して
~女性起業家サシバイ・キミスとアース・エア~

ピックアップ  日本や諸外国のバイヤーらが口にする言葉。それは、「マレーシア製はクオリティが低いうえ、とりたてて目玉となる商品がない」。シルクといえばタイ、バティックといえばインドネシア、ではマレーシアには何があるの?これが彼らの率直な感想だ。「品質に難あり」というマレーシア製品に対するイメージを払しょくできない品々が、多数存在するのは確かな事実である。 この苦境に敢然と挑み、マレーシアン・ブランドの確立を目指す女性起業家が存在する。サシバイ・キミス氏。本日は社会企業“Earth Heir(アース・エア)”の創立者である彼女の半生と、氏の取り組みを紹介しよう。

起業家としての素地は、13歳で形成される
 クリスチャンであるインド系マレーシア人家庭で生まれ育ったサシバイは、13歳で単身シンガポールへと向かう。「当時のマレーシア人には学校の選択肢がなかったため、両親が私の教育のためと、シンガポールの学校へ進学させたのです。あの年齢で家族と離れて暮らすことは並大抵の辛さではありません。しかし、13歳で自立したことが、今、私が起業家として一人で立っていられる素地を作ってくれました」。その後アメリカへと進学、世界最高峰学府の一つされるペンシルベニア大学・ウォートン校を首席で卒業、リーマンブラザーズに入社する。暮らしが楽ではない中、最高の教育機会を与えてくれた両親への恩返しのためにと踏ん張るも、「目的は金、ゴールは金」である周囲との距離に悩み、新たな道を模索する。

マレーシアへ帰ろう
 環境・社会問題に関心を寄せていたサシバイは、ケンブリッジ大学へ進学・修士号を取得後、国連開発計画(ガーナ)に赴任するなど、さらなる経験を積む。海外を拠点とし充実した生活を送る中、マレーシアへの帰国を決意、マレーシアの国営企業副社長として舞い戻ってきた。海外に留学し成功する若者の多くは、マレーシアには戻らず海外生活を選択するとされる。サシバイはなぜ帰国を決意したのか。「ガーナから帰任後、ロンドンで暮らしていました。海外で暮らすマレーシア人の多くの例にならい、私も自国への不満を口にしていました。それこそが帰国の理由で、マレーシアを変えなければとの思いに至ったのです」。

社会事業家への転身。そのきっかけは・・・
 マレーシア国営企業での仕事は多忙を究め、寝る間もない状態だったという。3年が経過したころ、激務疲れから、サシバイはKL市内で車を運転中、眠りについてしまう。「命を落とすところでした」。休養が必要と退職を決意。自然農法を営むハワイの農家で働くなど、かねてから興味のあったことを体験する旅に出る。友人を頼りカンボジアを訪れた際、手工芸品の製作・販売で生計を立てる家族と出会う。ある日、その家族が打ちひしがれている場面に遭遇、訳を尋ねたところ、「娘を人身売買取引で連れて行かれてしまった・・・」との答えに愕然とする。彼らの作る工芸品は、カンボジアの土産物として人気の品だ。昼夜を問わず働いても、その収入で家族の生計が立たないという事実。「最初は、その家族を助けたい一心でした」。カンボジアの工芸品をマレーシアで売る、という小さな一歩を踏み出したサシバイ。マレーシアにおける同様の問題に思いを馳せるに至るまで、時間はかからなかった。

給料ゼロの3年
 「地球を尊重し、シンプル・スタイルを貫く」ことを哲学とするサシバイは、2013年2月、Earth Heir(アース・エア)を設立。マレーシア国内外の優れた工芸技術を持つ人々の支援を開始する。「アース・エアは、我々の仕事ぶり・技術・作品を尊重し、それに見合った対価を約束してくれる。他の州からも身障者仲間が『仕事はないか?』と私を訪ねてくる。『私の工房で技術を磨いてくれるのなら、仕事はある』と答えることができるようになった」と、オン氏(59歳。KL在住。籐、竹のバッグを製作。職人歴35年)は笑顔で語る。「私は、この技術を受け継いだからこそ、結婚し、3人の子どもを育てることができた。今、4人の身障者を我が家に迎え、技術を伝授すべく共に働いている。アース・エアが確かな報酬を約束してくれるからこそできることだ」。一方でサシバイは、材料費、職人への報酬のため、給料ゼロの3年間を送る。「幸い2016年から収入を得られ始めました」。サシバイのビジネス・パートナーで、高学歴を有するシャオ氏は、とある講演会で卒業直後の自身の月給はRM1500であると明かしていた。

ブランディング確立のため、プロトタイプ製作に6か月~1年
 ビジネス拡大の鍵となるのは、マーケティングとブランディングだ。とりわけ、大量生産品や価格の安い類似品との競合には、ブランディングが欠かせない。そのためには、オリジナリティにあふれた高品質の品を、安定して生産し続けなければならない。さて、アース・エア商品の品質の高さは、専門家も驚くほど。「高品質を目指す上で、生産者サイドとの衝突は日常茶飯事です」とサシバイは苦笑する。サイズや色、模様、品数などを細かく伝えるも、「同じものばかり作るのは気分が乗らない」などの理由から、オーダーに応えてもらえない。ついには「私の作る作品が気に入らないなら、買ってくれなくていい」と関係がこじれることも。「生産者のみなさんの将来のため、高いクオリティを保つことが大切であることを知ってもらう努力が欠かせません」。各製品のプロトタイプの製作には6か月~1年を費やす日々だ。クオリティ、デザインセンスともに優れたアース・エアの品々は、サシバイの努力が実り、今、セレブリティや海外で注目され始めている。

公正な値段設定、それに対する心ない言葉
 ベトナム他、マレーシア国内外においても類似品は多々ある。例えばアース・エアの“ネリー・シリーズ”。プラスティックリボンを用いたバッグは、頻繁に見かけられる。「ベトナム製はプラスティックの品質が悪い上、編みも粗雑。また、マレーシア国内の他の作品は、一見同じに見えますが、強く安定した編み、細かな処理の点において、ネリーは非常に優れています」。また、ボランティア団体などが制作者に無償で作品を提供してもらうことで、安価に類似品が販売されていることをサシバイは憂う。「ボランティアは生産者を疲弊させ、長続きしません。ふさわしい対価を支払うことで、持続可能」。アース・エアの品は、類似品の2倍以上の価格設定だ。原材料に優れ、手間暇のかかった高品質の品であり、生産する者への対価が“ふさわしい”ためだ。人気のメンクアン・シリーズは、原材料の採取、事前加工に2週間以上を費やし、ようやく製作段階へと移行、さらには気候に左右されながらの工程となる。「草から作られたバッグが200リンギ?信じられない!誰が買うと思ってるの?」と、心ない言葉を投げかけられる度に「心が折れます」とスタッフらは口にする。

 「正しいことをしているとの信念だけでは、ビジネスは成り立ちません。マーケティングと、より一層のブランディング。高くてもアース・エアの商品を買いたいと思っていただけるよう、努力と工夫を積み重ねていきます」。サシバイ、そして志を同じくするスタッフらは、厳しいマーケット環境の下、一歩先を見つめて邁進する。


サシバイ・キミスさん
13歳で単身シンガポール留学、ペンシルベニア大学・ウォートン校経済学部首席卒業、ケンブリッジ大学環境開発修士号取得。リーマンブラザーズ、国連開発計画(ガーナ)、カザナ・ナショナル(マレーシア国営企業)副社長等を歴任。
2013年2月、EARTH HEIRを設立。2015年、米アイゼンハウワー賞受賞。2017年6月、梅光学園(山口県)50周年記念式典にて招待講演。
EARTH HEIRでは、サラワク州(Iban, Penan, Kenyah, Lun Bawang)、サバ州(Rungus)、マレー半島(Jakun, Mah Meri, Temuan)の伝統職人、高度な技術を有する身障者の作品などを取り扱う。

Earth Heir Studio
102, First Floor, Lorong Mamanda 2, Ampang 68000, Selangor
10:00〜18:00(月〜土)
www.earthheir.com




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素敵な品でいっぱいの、アース・エアのスタジオ

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大人気のネリー・シリーズ。国内外の類似品と比較すると、素材、編の技術、デザイン面において一目瞭然のハイクオリティ

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色、サイズ様々なビニール・バッグのネリーシリーズは注目の的につき、類似品も多々。アース・エアのロゴをご確認ください♪

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美しいクラッチバッグは、どれも一点ものの手作り品

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今現在、マレーシア国内にこのバッグの製作技術を有する職人は1人しかいない

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このバッグを製作可能な職人は、今やただ一人、しかも高齢につき、悩みはつきません

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身障者であるオン氏作の藤製のバッグ。上品さ、丈夫さはピカイチです

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一際目を惹くメンクアンシリーズ。素材作りに2週間以上、制作は天候に左右されながらの工程です

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海外からのオーダーを受けて作られたノートPC入れ

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コーポレートギフトとして、企業からの依頼で製作されたバッグ

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結婚式の引き出物としてオーダーを受け、制作された小物

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クッションや衣類もラインナップ

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ブックマークやブレスレット

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ネリーのボックスはお洒落で便利!

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美しく丈夫なラグの数々。編工程に2週間以上を費やします

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マラッカのビーズ製靴職人が作った財布

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シルクのハギレを用いて作られたマフラー。生産者が途絶えたため、在庫がある限りの貴重な品

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シルクのバティック製スカーフ

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サバ・サラワクの見事な工芸品やアクセサリー

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丁寧に作られたこちらの品はランプシェード

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宝の山のようなアース・エアのスタジオです♪

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オランダ人クライアントと打ち合わせするサシバイ(右)とシャオ氏(左)

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ビジネスパートナーのシャオ氏。大学での講演で、自身の月給は市場価格を大いに下回ると明かす

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SASIBAI KIMIS(サシバイ・キミス)氏