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K・K  2015年9月10日号掲載

ピックアップ  マレーシア東海岸におけるウミガメの産卵期は5月から9月と言われる。その期間中、トレンガヌ地方の産卵に適したビーチには、産卵のために上陸するウミガメが頻繁に見受けられるという。パハン州チェラティンを中心に、地元出身の友人をガイドに東海岸を旅した際、弾丸ツアーだったにも関わらず、ウミガメの産卵に立ち会うことができ、また子亀の放流を体験するという幸運に恵まれた。

 今回は、地元レンジャーらの活躍とともに、自然の摩訶不思議とも言えるウミガメの秘密をお伝えしていきたい。

アオウミガメ、一晩に115個の卵を産む
 ウミガメ保護を目的として、連日連夜、上陸と産卵を見守る地元のレンジャーの1人から、その日、1頭のアオウミガメが産卵のために上陸したという情報を得て、夜9時、ガイドとともに現地へと向かった。パハン州チェラティンから車で北上すること30分、トレンガヌ地方のとあるビーチに到着する。ウミガメを守るため、「ライトを用いてはいけない、カメラのフラッシュを決して焚いてはいけない」との注意を受け、車を降りる。満天の星空の明かりだけを頼りに林を抜け、産卵場所へと向かう。「今晩、君はラッキーだよ。本日の産卵場所は、ビーチに出たら、そこからたった200mだからね」と地元のガイドが教えてくれる。とは言え、岩がゴロゴロと転がる歩きにくいビーチを、足元の見えづらい中で進むのは難儀する。やがて、ヘルメットに小さなライトを付けた別のレンジャーが待つ小山の麓に到着する。彼の照らす僅かな明かりの下、そこに母親のアオウミガメがいることを確認する。目を凝らすと、想像以上の大きなアオウミガメが、瑠璃色に甲羅を輝かせ、海中を泳ぐかのような動作で、バサリ、バサリと砂を掻きながら、自分の体がすっぽりと収まる大きな穴を掘っていた。甲羅の縦の長さは1.2m。推定年齢は40歳から50歳とのこと。すでに産卵は始まっており、彼女はこの日、115個の卵を産卵した(一般にアオウミガメは、一回に110から120個の卵を産卵すると言う)。

ウミガメを守る地元のレンジャーたち
 まさにピンポン玉のようなアオウミガメの卵。その殻は華奢で壊れやすいため、うっかり母亀が壊してしまわないよう、レンジャーは1つ産み落とされるごとに丁寧に砂から取り出し並べていく。 トレンガヌ州の観光資源であったレザーバック・タートル(オサガメ)は、2010年を最後に上陸は確認されていない。主食のクラゲが激減しているためと言われている。また、トレンガヌではウミガメの卵を食用のために密猟して売却する者も絶えない。アオウミガメまで東海岸から消えてしまわないよう、レンジャーらは産卵された卵をすべて保護し、孵化して、海へと返す活動を地道に繰り返しているのだ。
 母亀は、周囲に人の気配を感じると、卵を守ろうと興奮する。レンジャーは、「大丈夫だよ。僕がいるよ」と優しく声を掛けながら、人間を遠ざけようと四方に砂をまき散らす母亀のヒレを「ポンポン」と叩く。そして、そのヒレにフジツボの付着を確認すると、ナイフで丁寧にフジツボを除去する。偶然にもそのとき、レンジャーは母亀のヒレに小さなタグが付いていることを発見。その亀は、過去、何らかの理由により、トレンガヌの別のレンジャーらの手によって保護され、再び海に帰された亀であることがわかった。「お母さんになって戻ってきてくれたんだな!ありがとう!」と、声をかけるレンジャーに、周囲も感極まり思わず「オー!」という歓声とともに拍手が起こる。「しーっ!」と諭されたことは言うまでもない。

アオウミガメの卵にオス・メスの区別はない!
 産卵された卵は、50-60日で孵化するという。母亀が海へと帰ると同時にレンジャーらはすべての卵を大切に保護施設へと持ち帰り、孵化させる。この方法を取らない場合、卵が人間によって密猟されるだけではなく、孵化した子亀が、野生動物やカニなどに捕食される可能性もあるためだ。絶滅危惧種に指定されているウミガメの保護は、各国の努力に委ねられている。トレンガヌでは、地元の有志がレンジャーとなり、シーズン中はひたすら母亀、卵、そして赤ちゃん亀の保護・育成に時間を費やしている。さて。卵は母亀から産み落とされた時点では、オス・メスの区別はない。ではどのようにして亀の雌雄は決まるのか。それは、砂の温度に関係するという。比較的涼しい砂の温度の場合(24度から28度)はオスが生まれ、温かい温度の場合(30度程度)はメスが生まれると言う。

真夜中の子亀の放流
 この日は偶然にも子亀が沢山生まれ、レンジャーらは母亀が海へ帰った後に子亀を放流するという。「一緒に手伝いませんか?」とのこと。見ると、二つの籠の中で、数十匹の生まれたばかりの赤ちゃん亀が、フニャフニャ、ヒタヒタと動き回り、海を目指そうと必死にもがいている。子亀は夜生まれる。それは捕食者の目から逃れるための自然の摂理だ。また、生まれて間もない子亀はパワーに満ち溢れているが、時間が立つとそのパワーは失われ、荒波を泳ぐ力が無くなってしまう。そこで、トレンガヌでは、子亀の放流は、経験豊富なレンジャーの指導のもと、生まれた直後の真夜中に行われる。
 頭や手足、甲羅に至るまで、何もかも柔らかい赤ちゃん亀はデリケートなため、甲羅の縁をそっと優しく指でつまむように持たなければならない。そして、海岸線から最低でも5〜8メートル離れたところに彼らを置き、自力で海へと向かわせる。ペタペタ、パタパタ、不器用に柔らかいヒレで海へと向かうため、ほんの小さな砂浜の凹凸でもひっくり返ってしまう子亀たち。うっかり親心で、水辺まで連れて行き、そこから放流してやりたくなるところだ。ところが、それでは子亀に「孵化した場所の記憶」を植え付けることができないのだという。5メートルから8メートル、この距離が記憶の植え付けに必要なのだ。放った亀が無事に水辺にたどり着きまでの間、何度もひっくり返り、その都度、異なる方向に歩み始める子亀。「お、海はこっちだ」と、すぐに気付く亀もいれば、なかなか気付かず、誤った方向に進む亀など、まさに一匹一匹が個性を見せる。彼らの力を信じ、根気よく、まさに親心で見守らなければならない。全子亀が水辺に達し、海に泳ぎ出ると、見守った全員から歓声が上がる。「彼らは早ければ20年で産卵に戻ってくる。」とレンジャーは言う。しかし無事に成長するのはほんの一部のはず。分かってはいるが、全子亀の成長を願わずにはいられない。
 海洋投棄物によって命を落とすカメも後を絶たないと聞くが、子亀の場合、投棄されたビニール袋にすっぽりと入り込んでしまい窒息してしまう例も多いと言う。地球の構成員として、我々一人一人も身近なことから心がけていかなくてはならない。

 東海岸では本物のマレーシアに出会えるという。自然と人と、魅力あふれる東海岸をぜひ訪れてはいかがだろう。




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穴を掘るアオウミガメのお母さん

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産卵するアオウミガメ

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産卵された卵はぴんぽん玉のよう!

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産卵直後のアオウミガメ

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産卵直後のアオウミガメ

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フジツボを取るレンジャーさん

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この日産卵された115個の卵

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生まれたばかりのアオウミガメの赤ちゃんたち

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生まれたばかりのアオウミガメの赤ちゃんたち

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ちっちゃいアオウミガメの赤ちゃん!

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ガイドのパク・スーさん