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A・W  2015年5月21日号掲載

ピックアップ  5月8日早朝、クアラルンプール近郊のぺタリンジャヤにあるグルドワラ(シク教寺院)におじゃました。午前8時半、経典の読経がスタート。「母の日の祈りを捧げる祝賀会」が幕を開けた。5人の僧が交代で読経し、5月10日午前8時30分まで実に48時間途切れることなく彼らの声は寺院に響き渡り続けた。

 インド人をイメージすると、「頭にターバンを巻いて髭を蓄えた体格の良い男性」を思い浮かべる人が世界的にみても多いという。まさにそれはシク教の男性たちの姿なのである。ところが統計データによると、シク教徒はインド人全体の2% にも満たないマイノリティだ。それにも関わらず、インド人= シク教徒とイメージされるのは、多くのシク教徒が母国を離れ、世界を相手に切磋琢磨してきた結果だろう。シク教徒は、名前の最後に男性は獅子を意味するシン、女性は王女を意味するカウルをつけることを特徴としている。

いつでもどこでも誰もが平等
 ペタリンジャヤにあるシク教寺院の現在の最高位(ゲニジと呼ばれる)および次位の僧は男性だが、その次の位の僧らは女性だ。筆者が寺院を訪れた際は、ベンジという位の女性の僧が読経をしている最中で、交代した僧もまた女性だった。人は皆平等と説くシク教では、女性がゲニジに就くことも当然可能である。

 「私たちの母のための毎年恒例の祝賀会なのよ」、小さな赤玉ねぎを刻みながら教えてくれた女性は、この寺院の最高責任者だ。寺院の最高責任者はゲニジではないのかという質問に、「ゲニジは経典を読むのが役目。僧が家事をする姿を想像できる?」と至極当然な答えが返ってきた。彼女の「いつでもどこでも誰もが平等」という言葉どおり、最高責任者である彼女自ら、参拝者全員に供されるベジタリアン料理(無料)の下ごしらえをしていた。

一緒に座ってフリー・フード
 寺院に到着するや否や、会う人皆から「ご飯食べた?」と次々に声をかけられ面食らった。『ご飯食べた?』がシク教徒の挨拶代わりなのかと勘違いしたほどだ。シク教では、人種・宗教・階級・職業関係なく、公平に食事をすることをモットーとしている。そのため寺院では必ず食事が無料で供される。

 さて、「ただほど怖いものはない」という考えがすっかり身に染みついている者としては、無料でご飯をいただくことにどうしても遠慮しがちになる。そう話すと、「シク寺院に来ると、みんな食べるところはどこかとまずは探す。それでいい。それに空腹は悲しいし、よくないことだからね」と料理を手伝っている女性たちが口々に笑った。食事の準備や片付けはすべてボランティアで行われている。「一生懸命美味しいものを作っているのだから、みんなと一緒に座って食事を味わってもらいたいのよ。遠慮しないで堂々と食べて行って。一つだけ注意してもらいたいことがあるの。皿に盛った食べ物は決して食べ残してはいけない。そのルールを守ってさえくれたら、何も気にせず楽しんで」。

48時間続く食事の準備
 寺院では、48時間読経が続くのと同様に、祝賀会に訪れる参拝者への食事の準備や後片付けも48時間絶え間なく続けられる。8日に訪れた際は、チャパティ、2種類のカレー、ピクルス、4種類の菓子が用意されていた。誰もが楽しそうに各々の持ち場で働いている様子は、寺院を初めて訪れる者さえ幸せにするパワーがあった。

シク教徒に亭主関白は存在しない
 社会上男女平等であることは彼らの様子から一目瞭然。では家庭内ではどうか。率直に尋ねてみると「亭主関白?そうしたがる男性はたまにいるけどね。でも想像してみて。夫婦ともに(ボランティアも含めて)働いていれば、子供たちも加えて家族全員で協力しないと家事は切り盛りできないのよ。結局、亭主関白は存在しなくなるのよ」と女性は異口同音にいきいきと答え、男性たちも「亭主関白?憧れるけど無理だね。みんながハッピーでいるためにはね」と笑っていたのが印象的だった。

「生きる経典」
 礼拝の対象は、彼らの経典「グル・グランド・サヒブ」だ。シク教を創り導いた歴代10 名のグルの魂のこもった経典は生きているとされ、朝、特別の保管庫から経典を祭壇へ移し、ゲニジがページを開くと経典は目覚め、夜、僧が経典を閉じ、保管庫へ移すと眠りにつくのだという。

 経典は読むことも大切だが、聞くことも大切だという。教徒らは経典への礼拝後、パルシャードと呼ばれる甘い菓子を受け取り口にすると、皆一様に壁を背に楽な姿勢で僧の読経に耳を傾けていた。子供たちはコロリと横になるなど、気持ちよさそうに眠っていた。




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仏像や聖画はなく、シンプルながら凛とした空気が漂う美しい寺院内

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参拝する信者のみなさん

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絶え間なく読経を交代する女性僧
読んでいる個所を次の読経者に指で示している

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「生きる経典」の「グル・グランド・サヒブ」

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読経を聞く教徒たち

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インド軍退役後にマレーシア寺院に赴任した
ゲニジと呼ばれる寺院内最高位の僧(右側)と、次位の僧

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神様からの食べ物(食堂)のサイン

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右手に共通の腕輪を着け、
ランガルホール(「神の食事をとるところ」)を手伝う人たち

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香ばしく美味しいチャパティを楽しそうに作る女性たち

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料理の下ごしらえをしつつ、
会場設営やキッチンに指示を出す
寺院最高責任者の女性(左側)

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食事をとる男性たち お腹がいっぱいの場合、
飲み物だけでも「共にとることが大切」

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妻と共に食事をとった後、テーブルを綺麗にする男性