1年以上前に更新された記事です。情報が古い可能性がありますので、注意してください。
Junko Motoyama  2012年2月16日号掲載

ピックアップ  ヒンズー教の奇祭といわれるタイプーサムが2月6日から8日にかけて開催された。信者が願掛けのために体に針を刺すなどの苦行をすることで知られるこの祭は、シンガポールおよび、クアラルンプール、イポー、ペナンなどでのみおこなわれているという。なかでももっとも人が集まるのがクアラルンプール市にあるバトゥケイブだ。洞窟内のヒンドゥー寺院には、期間中、毎年100万人以上の信者、観光客が訪れる。

 タイプーサムのもう一つの舞台が、クアラルンプールのチャイナタウンにあるスリ・マハ・マリアマン寺院だ。5日の夜8時頃に同寺院を訪れると、すでに牛車を象った銀の山車が寺院前に準備されていた。この山車とともに、6日未明、多くの信者が寺院を出発し、徒歩でバトゥケイブに向かうのだ。

 寺院内にはすでに信者が集まり始めている。願を掛ける信者はこの日のために肉を絶ち、断食をする。当日は縁起がいいとされる黄色い衣服を纏い、神に捧げる牛乳を銀のツボに入れて花で飾り、バトゥケイブまで運ぶのだ。なかにはガバディという神輿を担いでいる人もいる。

 11時、儀式の開始を告げる鐘が鳴らされ、ラッパと太鼓の音楽が司祭による祈祷を盛り上げる。深夜12時、多くの信者が見守るなか、司祭を載せた山車が出発。信者もバトゥケイブに向けて約10kmの道のりを歩き出した。

ライブ演奏に無料のスナックも

 「苦行」と言われるだけに、大変な行程かと思いきや、いたるところに水やジュース、カリーパフや炒めたビーフンなどの軽食を無料で配るブースがあり、さらにドラムとボーカルのバンドがインド風の生演奏を披露するなど、結構楽しい雰囲気だ。KLタワーやツインタワーを右手に眺めつつ歩くこと5時間、白々と夜が開け始めた頃、バトゥケイブに到着した。思っていたよりは楽だったが、牛乳が入ったツボやガバディを担いでいる信者の疲れ具合いは私の比ではないはずだ。

 バトゥケイブの麓では、信者たちが即席の床屋で髪を剃り、黄色い泥のようなものを頭に塗り付けて参拝の準備を整えている。寺院に続く272段の階段を上っている人もすでに大勢いる。背中や顔に針を刺している人もいるが、針による苦行ではなく牛乳を捧げる人が圧倒的に多いようだ。

 参拝を終え、階段を下りていると、隣を歩いていた女性が話しかけてきた。「タイプーサムは楽しいカーニバルみたいな雰囲気でしょ。だけど、家族の病気を治したい人や、子どもを授かりたい人の願いをたくさん叶えてきたのよ。多くの奇跡が起こってきたから、今もこうやって多くの人が願掛けやお礼参りに毎年来るの。子どもを授かった人は、子どもを連れて神様にありがとうと伝えに来るのよ」。

 「奇祭」と呼ばれ、痛そうな苦行ばかりが注目されるタイプーサムだが、当然ながら、信者たちは切実な思いを込めてお参りしている。怖いもの見たさで参加したことを見透かされたようだった。

 すっかり明るくなったバトゥケイブを背にKTMの駅に向かって歩くと、銀のツボを担いだ信者の列が途切れることなく続いている。ヒンズー教が産まれたインドですらおこなわれていないこの祭が脈々と受け継がれているマレーシアの文化的な懐の深さを改めて感じた。


写真
スリ・マハ・マリアマン寺院前で待機する銀の山車

写真
スリ・マハ・マリアマン寺院

写真
神に捧げる牛乳を入れた銀のツボ

写真
黄色い服を着てガバディを持つ信者

写真

写真
銀の山車に続き信者がいっせいに歩き出した

写真
老若男女、乳母車を押すカップルもいた

写真

写真

写真
バンドの演奏が深夜の街に響いていた

写真
まだほの暗いなかバトゥケイブに到着

写真

写真
トランス状態になっているため痛みは感じないという

写真
口元に針を刺している信者

写真
髪を剃って黄色い泥のようなものを塗る

写真

写真
孫を連れて来たというおじいさん

写真

写真