ミシュラン1星京料理店「木乃婦」代表 高橋拓児シェフ

ピックアップ  「シンプルかつ複雑」。2013年、ユネスコ無形文化遺産に登録された“和食”の特徴を、高橋拓児シェフ(ミシュラン1星京料理店「木乃婦」代表)は、こう端的に表現します。「塩が効いて甘く、酸味とともに苦みがあり、食欲を抑える作用のある“旨み”を有する料理、それが和食です」。世界で最も愛される食の一つである“和食”の魅力を、高橋シェフが紐解きます。在マレーシア日本大使公邸での講演会の様子をご紹介しましょう。

60度におよぶ温度差が日本の食文化を決める
 6850の島々から成る日本は、夏は40度前後、冬はマイナス25度に達する地域もあるなど、年間を通じて60度もの温度差が生じるユニークな国。このユニークさが日本の特徴であり、食文化に大きく影響を与えているとの説明に、会場に参集した一同より「ほー」との声が上がります。

なぜ日本茶は他の茶と異なるのか?〜マレーシアでも日本食が美味しく作られるわけ〜
 世界で愛される「茶」。ところが “日本の茶”は蒸すなどした不発酵茶で極めて独特。これは日本の水が軟水であるため。軟水と発酵茶の相性は悪く、渋みや苦みを抑えてうまみを出せるように生み出されたのが日本茶です。また、昆布のうまみ成分がしっかり抽出され、ご飯がふっくら炊きあがるのも軟水の特徴。マレーシアの水は軟水です。マレーシアでも日本食を美味しく作ることができるのは、マレーシアの水が理由でした!

日本のお米が美味しいわけ
 日本の国土は極めて農作物に適した土壌で、その肥沃な土壌に稲作がおこなわれていることが、日本のお米が美味しい理由です。米の種類は極めて多く、薫り、食感はそれぞれ異なりますが、白飯だけで十分美味しいのが日本で作付けされた日本米の特徴です。

発酵食品~醤油はスパイス!?
 各国で愛される「発酵食品」。日本では麹が食文化を決めており、麹を用いた日本の発酵食品の代表格は味噌。ほとんどの都道府県では米麹を用いた米味噌が作られていますが、名古屋では大豆100%の豆味噌がそのユニークな食文化を支え、九州や山口などでは気温が高く、発酵が進み過ぎるのを避けるために麦麹を用いた麦味噌が作られ、食卓に上ります。続いて忘れてはならない醤油。大豆を多く用いる濃口、米から作られた甘酒入りの薄口、濃口よりも多くの大豆を用いた“たまり”の3種類があり、「料理の仕上げに用いられる薄口しょうゆは香りつけ用、いわゆる“スパイス”です」との説明に、日本人からも驚きの声があがります。

料理の肝は日本の北と南から
 日本料理の味の決め手は“うまみ”であり、昆布、そして鰹節がたっぷり用いられることはご承知のとおり。しかし「美味しい昆布は北海道産、美味しい鰹節は鹿児島県枕崎産。つまり、日本の最北端と最南端の産物が日本食の味を決めます」との説明に日本食の奥深さを痛感します。

魚の種類が豊富なわけ
 北緯43度から26度と縦に長く伸び、かつ4つの海流(暖流と寒流)に囲まれる日本では、魚の種類が豊富です。寒い季節、温かい季節のいずれも豊富で様々な魚を楽しむことができるのも、日本列島ならではの特徴です。

春は苦いものと甘いものを食べる季節
 寒い季節には体を温める食材を、暑い季節には冷やす食材を用いる日本食。春はとりわけユニークで、苦いものと甘いものを同時に楽しむ季節でもあります。例えば酢味噌和えに用いられるワケギは、根の部分は甘く、葉の部分は苦いのが特徴。伝統的な食材の一つであるツクシも苦みを楽しむ食材です。「季節を先取り、どのように召し上がっていただくかを考えるのが私たちの仕事です」という言葉に、日本料理の極意を感じます。

日本の代表食器である“椀”に敬意
 和食の料理名は“調理方法と食材”によって決まるため、メニューを見ればどのような料理が供されるかがわかるのが日本食です。「唯一異なるのは、椀に入って供される“椀物”。これは日本の代表食器である“椀”に敬意を表したものといえるでしょう」。蓋を閉めると高気密となり、高温を保つことができ、ひっくり返してもこぼれず、口を付けても熱くなくいただける“椀”。食器に敬意を表した料理名とは、粋の一言に尽きます。

 講演に続き、鳥貝とワケギの酢味噌和え、椀物、本ますの木の芽焼き桜の葉添え、鯛めしのデモンストレーションを参加者は堪能。京都大学で修士号を取得したシェフならではの詳細に分析された和食の説明に、日本人であることに誇りを感じる、春の一日となりました。


京料理店「木乃婦」

ウェブサイト
www.kinobu.co.jp/top_f.html




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高橋シェフの講演に耳を傾ける参加者

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料理デモンストレーションを熱心に見つめる参加者

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「昆布に加え、こちらのボールに入った上質の鰹節をすべて鍋に投入します」とシェフ

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昆布と鰹節でとったお出汁。色はまるでウーロン茶のよう

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春の素材”ワケギ”は部位ごとに味が異なるとの説明に一同納得

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鯛めし

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鳥貝とワケギの酢味噌和え

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本ますの木の芽焼き桜の葉添え

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椀物

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来場者の方からの質問に丁寧に答える高橋シェフ

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高橋シェフと記念撮影中の一コマ。
中央はマレー料理界のセレブリティ・シェフ、ワン氏

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高橋シェフのマレーシア招聘に尽力された2人。
左から、上山賢司氏(株式会社リーフ・パブリケーションズ編集長)、
石澤祥子氏(大日本印刷株式会社)

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高橋拓児シェフ(ミシュラン1星京料理店「木乃婦」代表)